日本の歴史において、「営業」という二文字が出現したのは、はたしていつ頃の事なのだろう。
日本で初めて商社を創業したと言われているのは坂本竜馬の「亀山社中」である事は有名な話であるが、当然、その業務の主たるものは基本「営業職」であったと推察する。そう考え、歴史を辿ると亀山社中以前に日本において営業の原点を築いた人物達がいる、聡明な読者諸兄はお気つきだろうが、鎌倉時代から江戸時代に活躍した、「近江商人」なのではないだろうか。
彼らは、「三方よし」の論理、すなわち「売り手よし」、「買い手よし」、「世間よし」、の考え方で日本における商売、営業職の礎を築いたと言っても過言ではない。
しかしながら、江戸中期に入ると現在の総合商社の伊藤忠や丸紅の原点となる店舗型商売が主流となり、そこでは初期の頃の営業職の概念は変化し、店舗型の販売員と事務方も含めた「商人」という位置付けへと変遷していった。後に、そのスタイルは世界に名だたる総合商社へと変貌を遂げ、「商社マン」=「営業」という図式にもなったのである。
いずれにしても、「営業」の基本は「三方よし」、すなわち「売る」人間は利益を得る事ができ、「買う」人間には買ったメリットがある、「世間」では金銭が流通し、需給というプロセスが活性化する、それぞれの効果が生み出される、「営業職」は非常に重要な存在だと私は理解する。
勿論、当時と現代では環境が全く違う為、そう簡単に表現できないかもしれないが、基本的な考えは昔も現代も変わらないと解釈する。
すなわち、「営業」とは経済社会を活性化する為、人間社会を幸せにする為、企業の継続を維持する為、個人の生活を潤す為、等の重要な役割を担っている職種なのである。
しかしながら、営業職の立場というものは非常に弱い、特に製造系・開発系の企業においては現場で使えないから営業職に転籍になった、というような話を良く耳にする。
営業職が脚光を浴びた話はあまり耳にしない、それを証明するに営業職に対する公的・私的含めても資格・認定制度というものは非常に少ない。一部のメーカーが自社製品を対象に実施している程度に過ぎない。そのような資格や認定を出す為の明確なスキル定義というものが不明瞭であるからかもしれないのと、一番人間臭い職種であるからとも言える。
現在、数多くの営業系に関わるハウ・ツーや雑誌が散乱している、弊誌もその一つであるとは思うが、はたして営業とはそんなに難解な職種なのだろうか。私の卒直な考えを述べると、営業職という職種が難解なのではなく、営業職が活動するフィールドや環境、インフラが時事変化している為に難解になりつつあるのではないかと思っている。
特に今後は日本の経済成長はかなり厳しく、いわゆる低迷時期を迎えると推察する。日本国内を営業のフィールドとして活動する諸兄にはかなり苦しい時代が到来するといえる。加えてデジタル化が更に進み、より一層難しくなる。昭和中期に始まった高度経済成長以降、右肩上がりで成長を続けてきた日本市場ではあるが、少子高齢化問題等にも代表されるよう、間違いなく市場は縮小傾向であり、今後は多くの企業がその市場を海外の新興国に求め、投資の行き先も自然と新興国となる、もはや内需は成長を鈍化させ、良くてもフラットであり、市場の縮小とともに企業間競争も生き残りをかけた熾烈極まりない世界に突入するであろう。
従来の営業職の役割やスタンスには大きな変革が求められ、生き残りをかけたサバイバル社会となる事が予想される、というより既に始まっていると言えるかもしれない。
本誌は市場変化、環境変化、インフラ変化等そのメカニズムを解く事により、営業職の原点である、「三方よし」の精神で、読者諸兄の営業の変革を発揮できる一助になればと思い、執筆した。
営業職の活動した歴史において、今後も含めたステージを3分類する事により、過去から現代の営業職の役割・営業の方法を明確化する事により、今後の営業スタイルの在り方、実績を上げる為のポイントを本紙において説明させて頂く。
これからの営業職の在り方、姿、好成績を収める為の手段、それらを必ずや得とくして頂き、「クール営業」へと変貌して頂きたい。
現代営業第一ステージ ---- 昭和25年~昭和60年
日本国内における旺盛な需要に支えられ、
拡大を続ける市場を活躍の場とした営業職モデル
現代営業第二ステージ ---- 昭和60年~平成20年
完成を遂げつつある大きな市場において、
第一ステージの営業スタイルを踏襲するも、
拡大した市場をカバーする為に、
質よりも量を求められた営業職モデル、
後にバブル崩壊やリーマンショックを経験し、
苦渋を強いられた営業職モデル。
現代営業第三ステージ ---- 平成20年以降
日本国内における需要が減少し、市場は縮小傾向となり、
モバイル機器やネット環境の更なる発展により、
企業間競争が激化する中で、
従来の営業手法では通用しなくなり、
大きな変革が要求される営業職モデル
尚、最初にお断りしておくが、弊誌は中堅クラス以上の営業向けの内容であり、営業初心者や、営業不適格者と認識されている方は、別の書物をおすすめしたい。あくまでも、営業の素養は十分であるが、どうしても結果に結び付かない方々を対象とさせて頂いている。